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東京地方裁判所 昭和55年(ワ)3386号 判決

原告 宮崎勝彦

右訴訟代理人弁護士 若梅明

被告 石原建設株式会社

右代表者代表取締役 石原孝信

右訴訟代理人弁護士 石原寛

仁平勝之

吉岡睦子

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一申立

一  原告

1  被告は原告に対し、金三一六万八〇〇〇円及びこれに対する昭和五五年二月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨の判決

第二請求の原因

一  原告は、昭和五三年五月八日、被告を代理する訴外日本信託銀行株式会社との間で、別紙目録記載の土地付区分所有建物(以下、本件建物という。)について、つぎのような売買契約を締結した。

(1)  代金一三二〇万円

(2)  契約締結時に手附金一三二万円、同年八月三一日までに中間金一三二万円、同年一一月一五日までに残金一〇五六万円を支払う。ただし、右残金のうち、金五二〇万円は訴外住宅金融公庫から融資を受け、金二〇〇万円は日本信託銀行から提携ローン融資を受けて支払う。

(3)  本件建物の所有権は、原告が代金全額を支払ったときに移転する。

(4)  原、被告は、相手方が本契約に違背し、相当の期限を定めた履行の催告に応じない場合には、つぎの条件に基づき契約を解除することができる。

(一) 原告の違背による場合は、被告は手附金を違約金として没収し、中間金の授受が行われた場合は、被告において右中間金を無利息にて原告に反還するものとする。

(二) 被告の違背による場合は、被告は受領済の手附金及び中間金を原告に無利息にて返還し、且つ手付金相当額を違約金として原告に支払うものとする。

しかして、原告は被告に対し、右契約締結時に手附金一三二万円、昭和五三年八月三一日に中間金一三二万円を支払った。

二  しかるに、被告は、昭和五四年一〇月三〇日、本件建物を第三者に譲渡して引渡した。

三  原告は被告に対し、昭和五五年二月二三日到達の書面で本件売買契約を解除する旨の意思表示をした。

四  原告は、原告代理人に本訴の提起を委任し、着手金、成功報酬として金五二万八〇〇〇円を支払う旨を約した。

五  よって、原告は被告に対し、違約手附による手附金の倍額である金二六四万円及び債務不履行による損害賠償として、弁護士費用金五二万八〇〇〇円合計金三一六万八〇〇〇円並びにこれに対する解除の日である昭和五五年二月二四日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三請求の原因に対する認否と抗弁

一  請求の原因第一ないし三項は認める。同第四項は不知。

二1  原告は、期限を徒過しても、残代金を支払わないため、被告は原告に対し、昭和五四年三月二三日到達の書面で、到達後二週間以内に残金一〇五六万円を支払うよう、右支払なきときは、本件売買契約を解除する旨の意思表示をしたが、右期間内に支払わなかった。

2  よって、本件売買契約は、同年四月六日限り解除され、手附金一三二万円は没収された。

第四抗弁に対する認否と再抗弁

一  抗弁1は認める。同2は争う。

二1  本件建物には、通路側外壁部に、床面約四八・五センチメートルから六二・五センチメートルにかけて、約一四センチメートル四方の開口部(以下、本件開口部という。)が設けられているところ、本件開口部は、外壁側と内側にパンチングパネルを貼ってあるものの、外部から内部を見通すことのできる法令で要求されない開口部であり、しかも本件契約時には、設計上存在しなかったものであるから、契約に適合しないものというべきであり、原告は被告に対し、本件開口部を閉鎖するよう修補を請求した。

2  よって、原告は、右修補ができるまで、代金の支払を拒絶することができるから、契約解除の主張は理由がない。

第五再抗弁に対する認否

再抗弁1のうち、本件開口部が主張のような形態で設置されていることは認めるが、その余は否認する。本件開口部は、昭和五三年五月ごろ、訴外東京瓦斯株式会社(以下、単に東京ガスという。)から、ガス工事設計段階において、訴外社団法人日本瓦斯協会作成の給排気計画設計資料「ガス機器の正しい設置について」により、本件建物を含む全分譲建物につき、室内にガスコンロがあるため、給気口を取り付けなければ、ガスの供給をしない旨の指導を受け、右指導に従って給気口として設置されたものである(建築基準法二八条二項、同法施行令二〇条の二は、建築物に換気のため開口部を設けることを義務づけ、また消防法九条、東京都火災予防条例三条三項、一八条二項四号は、火災予防のための換気につき規定する)。また、本件開口部の位置は、床上四〇数センチメートルの下部にあり、しかもパンチングパネルという多数の穴のあいたものを内外二枚とりつけてあるから、内部を見通すことは不可能であるうえ、本件開口部の室内直下には、洗濯機パンが設置されており、そこに先濯機を置くことによって内部の透視を容易に遮蔽できる。ちなみに、本件分譲マンションの他の区分所有者から本件開口部に関し、苦情が出たことは皆無である。

第六証拠《省略》

理由

一  請求の原因一ないし三項の事実は、当事者間に争いがない。

二  抗弁1の事実は、当事者間に争いがない。

三  よって、再抗弁について検討する。

1  本件建物には、通路側外壁部に、床面約四八・五センチメートルから約六二・五センチメートルにかけて、約一四センチメートル四方の本件開口部が設けられたことは、当事者間に争いがない。

2  そこで、本件開口部が設置された経緯についてみるに、《証拠省略》を総合すると、

(一)  本件マンションは、総戸数一一二戸、内販売戸数一〇七戸(一DK二八・〇七平方メートル九六戸、二DK四〇・五〇平方メートル一一戸)で構成され、原告は、一一階の二DK四〇・五〇平方メートルの本件建物を購入したものであるところ、本件建物は、洋室と和室の二室が窓を有し、DKには、その南側に強制換気方式をとる流し台、レンジフード等が、その西側の廊下に面したところに、上部に内部給排気型ガス瞬間湯沸器、下部に洗濯器パンがそれぞれ設置されていたが、廊下への出入口のほかには、窓等の換気設備は設けられていなかった。

(二)  ところが、原・被告間において本件建物売買契約が締結された後である昭和五三年五月下旬にいたり、被告は東京ガス大田営業所厨房プロジェクトチーム係員から本件建物を含む分譲建物全部につき、DK室内でガスコンロを使用することから、不完全燃焼を避けるため、訴外社団法人日本瓦斯協会作成の「ガス機器の正しい設置について」にのっとり、天井の高さの二分の一以下で、直接外気に面した部分に約一四センチメートル四方の給気口を設けるように要望され、やむなく総額約金一〇〇万円を支弁して各戸に本件開口部と同じ給気口を設置するにいたった。

(三)  本件開口部は、内側と外側に、無数の小さな穴を開けた各一枚のパンチングパネルをはりつけ、その中には、シャッターバネを設けて火災の際には、扉が閉まる構造になっており、床上約四八・五センチメートルのところに設置されているうえ、壁の厚さを隔てて右パンチングパネルがはられているため、内部を一見して容易に見通せるという程の状態ではなく、しかもその位置が洗濯パンのすぐ横にあたるため、洗濯機を置くことにより、容易にかくすことができる状態にある。

(四)  原告は、本件建物の下見にあたっては、本件開口部の存在を欠陥として主張することがなかったものの、その後、本件開口部設置の法律上の根拠を問い質し、被告において、東京ガスの指導により設置した旨を説明しても、これを納得せず、法律上の根拠がない以上、これを閉鎖するための補修をなすように要求するにいたり、一旦は手動式の蓋をつけることが検討されたけれども、東京ガス、消防署から常時開口するように求められたため、実現しなかった。また、被告は、昭和五四年二月二〇日、東京ガス係員を伴って、説明のため原告宅を訪れたが、原告は、東京ガス係員は関係ないとして、面談させない態度をとり、本件開口部の閉鎖の補修をあくまで要求し、さらに同年三月一九日に面談した際にも、同様の姿勢を崩さなかった。

(五)  本件マンションの他の区分所有者から、本件開口部と同じ給気口の存在につき、全く苦情が寄せられていない。

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

3  右事実に徴すると、機密性の高いマンション建物においては、ガス中毒にいたる危険性が高いことは明らかであるから、仮に原告の主張するように、本件開口部の設置に法令上の根拠がないとしても、建設施工をなす被告としては、東京ガスから右認定にかかる資料に基づいて給気口である本件開口部の設置方を指導されたからには、完工後本件マンションにガスの供給を受ける必要上、東京ガスの右指導に従ってこれを設置するのは当然であり、当初の設計図面上にこれが存在しなかったからといって、右結論を左右するものではなく、本件開口部の存在自体をもって瑕疵ということはできない(また、本件開口部が、その両面にパンチングパネルを付した構造のため、開放廊下側から目を寄せると、内部を見通し得ることをもって、瑕疵ということにしても、前記のように、一見して容易に見通せる程の状態ではなく、洗濯機パンに洗濯機を置くことにより、これを隠すことができる以上、右瑕疵はごく軽少なものというべきであるから、残金全額の支払を拒絶することは許されない。)。

4  よって、再抗弁は理由がない。

四  以上のとおり、本訴請求は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 伊藤博)

〈以下省略〉

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